■オーバーホール実施のS1パーツコンエンジンデータ
施工日 | 2002/11/14 |
施工後距離 | 73,812km |
S1パーツコン基数 | 328基中35基目 |
今まで報告してきた通り、コンディションが良く、順調にO/Hが進んでいたS1-Engですが、ターボチャージャー(以下、ターボ)に破損がありました。
皆さんに【ターボが消耗品】である事を理解して頂きたいので、普段のO/H時には行わない検査もまじえ、紹介させて頂きます。
まず最初はアウトレットを外して内部の点検も行います。またこの際、シャフトを回してみて異音が出ていないか、回転に渋りは無いか確認します。
主に五感を使った最初のチェックとなります。但し、今回はシャフトやホイールには違和感が無かったのですが、加速不良を起こす要因部位でもある排気のバイパスバルブの受け側に大きな亀裂が入っていました。
↓アウトレットを外した状態
↓バイパスバルブ受け側の亀裂
■計測・点検
R34 STD ボールBRG | |||
基準値 | スラストガタ | 0.123~0.203 | |
ラジアルガタ | 0.085~0.106 | ||
(mm) | |||
Frターボ | スラストガタ | 0.122 | |
ラジアルガタ | 0.088 | ||
Rrターボ | スラストガタ | 0.121 | |
ラジアルガタ | 0.085 |
ダイヤルゲージを使ったガタについては、スラスト(横方向)も、ラジアル(縦方向)も、基準値より小さい値となる事が多いのが一般的です。このEngも同じ傾向です。これはボールベアリング式のターボチャージャーでよく見られ、ベアリング部の焼き付きや、オイルのスラッジ溜まりが原因の一つです。
ターボ内部には、冷却水と合わせEngオイルが循環しており、同Engの排気温度に考慮したオイル選択に誤りがあったり、交換サイクルが悪かったりする事の蓄積により、ベアリングやシャフトに熱が入り、不具合が発生する事があると言えます。異音確認と合わせ、ガタの確認は、重要な点検となります。
参考として:分解
バイパスバルブ受け側の亀裂の熱害について、他の部位への発生を確認する為に分解してみました。
<ターボハウジング側まで破損が....>
高温高圧にさらされるタービンハウジング内にも亀裂を発見。また、目視で縦だけかと思っていた亀裂は、レッドチェックで点検してみると、横方向にも入っていました。高温の排気で真っ赤になるまで熱せられる部分で、熱害も発生しやすい場所です。今回のターボはその熱害が顕著に出ていました。
大森ファクトリーでは、少しでも耐久性を高めるために、そしてブーストの安定と亀裂防止の両方の観点から、加工を実施しています。
※S1-Engは、STDターボの交換と言っても、加工を施しています。
<よく言うハネ/フィン=コンプレッサーホイールの確認>
ターボハウジング同様にレッドチェックを施してみましたが、こちらには亀裂は見られませんでした。
同じくタービンホイール側もレッドチェックでの不具合は見られません。
↓左側が今回のターボ分
ベアリングカラー部とシャフトを点検。比較写真を見て貰えればわかりますが、熱による変色が少し見られます。これはターボが高温になって発生した症例です。熱害を受ける原因としては、油膜切れ、オイルストレーナーの目詰まりを含めた油路の詰まりや、オイルポンプの作動不良等を含めた油量低下、等が考えられます。オイル交換を定期的に行っていても、油温を下げる事も大事ですね。
こういった意味でも、チューニングEngでは、ターボの負担低減目的にインタークーラーを高性能品へ交換したり、Eng-OILクーラーの装着も効果的となります。
参考として:X線検査
↓スマホを試しに撮影
視認出来ないホイールやシャフトの内部がどうなっているのか、X線検査装置で確認します。
コンプレッサーホイールとタービンホイールもX線検査を実施。今回は、内部の亀裂は見つかりませんでした。
参考として:いわゆるエコー検査
この機種では使い方が違いますが、亀裂部分の深さを超音波検査装置で見てみました。矢印の所を見てもらえるとわかりますが、一番上の表面層から離れた所に反応があります。これが亀裂箇所となり深さや長さが解ります。もちろん見えない部分も判明しました。
今回、様々な検査と点検を行いましたが、他にも軸の曲がり確認もありますし、回転軸のバランス点検も必要となります。RBでは2基のバランスもあります。
ただし、最も怖い金属破断の時期は、このレベルでは解りません。もっと高度な検査で解るかどうかです...
一般的に、ターボ交換の標準作業時間は16h程度なります。また、今回紹介したような点検を仮に行うとすると、相当の費用が発生します。何時、金属破断が発生するか解らないまま...
大森ファクトリーでは、実際に、ターボ破損によるEng本体の全損や、もっと悲しい事例として、リビルトターボに交換したばかりでEngを全損された車両さえ何台も見てきました。結果的に、高額な修理費用が皆さんに掛かるだけです。
【ターボは消耗品】
【正しいレンジのオイルを正しいサイクルで交換】
*高温域での使用後は、距離とは別に交換サイクルを早める。
【仕様温度域にあった補器部品をトータルでセットアップ/装着】
【異物の混入はさせない】
*新品交換なのに、作業ミスでの異物(ガスケット、NUT、ウエス、等々)混入のハネ破損もみてきています。
この4つは覚えておいて下さいね。結果的には維持費をおさえる事になります。
そして何より、ターボを交換するだけではなく、信頼できる所で施工し、安心も買って下さい。
以上、エンジン班の長鶴でした。
Vo.8 ベンチ運転・シャシダイ 編につづく。